古エッダ
概要
- 古エッダ(Elder Edda)、または詩のエッダ(Poetic Edda)と呼ばれる[3]
- 「エッダ」の語義ははっきりせず、「オッディの書」としたり、「詩学」「尊崇さるべきものについての書」とする説など様々ある。発見者ブリュニヨールヴが、スノリの詩学入門書「エッダ(スノリのエッダ)」の引用原本であると誤解し、名付けた[1]
- 過去(あるいは超時的)の神々・英雄を客観的叙述で謳う古歌謡。ゲルマン神話と英雄伝説の一次資料として重要[10]
- 多くの歌謡と同じように、節をつけて歌われた[1]
- 1270年以前に作成されたもの。一つないしいくつかの原本の写しであると考えられる[1]
- 十七世紀、アイスランドのスカウルホルトで司祭ブリュニヨールヴ(1639-75)により発見された。後にコペンハーゲンの王立図書館に治められた[1]
- 二十九歌謡(うち二つは断片)が収録。羊皮紙45枚からなる。32枚目の後8枚(「シグルドリーヴァの歌」の末尾から「シグルズの歌 断片」の終わりにかけて)が失われているが、神話を知るための最も優れたテキストといえる[1]
作者
古くから口承により伝えられていたものであり、特定の作者はいない[1]。
編者
不詳。複数の、時代を異にした編者であると考えられる。発見者ブリュニヨールヴは当初、十二世紀のアイスランドの学者セームンド(1056-1133)が編纂したと誤解していたため、十九世紀までは「セームンダルエッダ」と呼ばれていたことがある[1]。
成立年代
800年~1100年にわたると考えられるが、諸説あり不明[1]。
成立場所
神話詩は、ノルウェーもしくはアイスランドであると推定。英雄詩は、大陸から直接、あるいはデンマークを経て、スカンジナヴィアへ渡り、アイスランドにまで伝来したと考えられる[1]。
使用言語
古代北欧語(西北欧語)≒古代アイスランド語[1]。
韻律
- ゲルマン古詩に共通の頭韻を特徴とする[1]
- 韻律は比較的自由[10]
- 三通りの韻律が用いられている[1]
- fornyrðislag(古譚律)
- 全部で四行の長行の真ん中に切れ目があり、半詩節に分けられる[1]
- 各長行は二つの短行からなり、最初の短行をAnvers、後半の短行をAbversと呼び、頭韻で結ばれる[1]
- 各短行は通常、四音節、たまに五音節からなり(長音節として単音節扱いすることが多いので)、そのうち二音節は強勢をもち、他の二音節は弱勢からなり、交互に配されており独特のリズムを形作る[1]
- ljóðaháttr(歌謡律)
- fornyrðislag(古譚律)よりも不規則な韻律で、神話詩や確言詩に多く使用される[1]
- málaháttr(談話律)
- fornyrðislag(古譚律)に似た韻律だが、談話に適し、ごく限られた2、3の歌謡に使用されるのみ[1]

ケニング
巫女の予言[1]
- Vǫlospá[3][13] 巫女の予言[3] [女][3] (vǫlva 巫女、杖(vǫlr)をもって歩く者 [女])[3](spá 予言 [女])[3]
- 古エッダ中の最重要詩篇で、天地創造から宇宙壊滅までが語られる[3]
- 巫女がオーディンの要請によって、世界の起源、神々の生活と運命、世界の終末と新しいよりよい世界の再来について語る[1]
- 出典:王の写本、ハウク本、スノリのエッダ(引用)[1]
- 成立年代:1000年前後[1]
- 成立場所:アイスランド[1]
- 作者:不明。異教からキリスト教への過渡期に生きたアイスランドの僧侶の作か?[1]
- 韻律:fornyrðislag(古譚律)[1]
オーディンの箴言[1]
- Hávamál[3][13] ハーヴァマール[3] the words of the High One[3] [中][3] (Hávi オーディンの別名。高き者の意)(mál ことば、事柄、契約 [中])[3]
- 古エッダの中の箴言集で、古代ゲルマン民族の精神・風俗・習慣を記した詩集[3]
- オーディンが詩人ロッドファーヴニルに対して様々な忠告を行うというていで、生活の知恵や処世術、ルーンの秘密などを紹介する
- 格言詩[1]
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:十世紀[1]
- 成立場所:恐らく77節まではノルウェー、他は不明[1]
- 韻律:ljóðaháttr(歌謡律)[1]
ヴァフズルードニルの歌[1]
- Vafðrúðnismál[3][13] (mál ことば、事柄、契約 [中])[3]
- 物識り巨人ヴァフズルードニルとオーディンが知恵比べをするというていで、様々な世界の知識を紹介する
- 記憶詩[1]
- 出典:王の写本、アルナマグネアン写本、スノリのエッダ(引用)[1]
- 成立年代:十世紀前半か[1]
- 成立場所:ノルウェーかアイスランド[1]
- 韻律:ljóðaháttr(歌謡律)[1]
グリームニルの歌[1]
- Grímnismál[3][13] (Grímnir[1] 仮面をかぶる者[1] オーディンの別名)(mál ことば、事柄、契約 [中])[3]
- オーディンがゲイルロズ王の息子アグナルに対して祝福を与えるというていで、様々なものの名前や世界の知識を紹介する
- 記憶詩[1]
- 出典:王の写本、アルナマグネアン写本、スノリのエッダ(引用)[1]
- 成立年代:十世紀初頭[1]
- 成立場所:ノルウェーまたはアイスランド[1]
- 韻律:大部分はljóðaháttr(歌謡律)、一部fornyrðislag(古譚律)[1]
スキールニルの旅[1]
- For Scírnis[13]、Fǫr Scírnis[13] (fǫr 旅、航行 [女])[3]
- 太陽神フレイと大地の女神ゲルドの結婚を祝う豊穣儀礼の歌(M・オルセンの説)[1]
- 神話的テーマを扱いながら、詩人自身の感情を吐露した創作(J・デ・フリースの説)[1]
- 出典:王の写本、アルナマグネアン写本[1]
- 成立年代:900年頃[1]
- 成立場所:ノルウェー?[1]
- 韻律:ljóðaháttr(歌謡律)[1]
ハールバルズの歌[1]
- Hárbarðzlióð[13] (Hárbarðr[1][13](ハールバルズ[1]) 灰色の髭[1] オーディンの別名[1])(barð 草地 口の上の髭の同義語 [中])[3]
- 渡し守に化けたオーディンとトールが口論をするというていで、互いの様々な事績を紹介する
- 出典:王の写本、アルナマグネアン写本[1]
- 成立年代:十世紀後半[1]
- 成立場所:アイスランドよりはむしろノルウェー[1]
- 韻律:多くはmálaháttr(談話律)とljóðaháttr(歌謡律)、若干はfornyrðislag(古譚律)。韻を踏まないのも若干みられ、エッダの中でもっともルーズな形式を取る[1]
ヒュミルの歌[1]
- Hymisqviða[13]
- トールとテュールが巨人ヒュミルのところに大釜を取りに行く話[1]
- 出典:王の写本、アルナマグネアン写本[1]
- 成立年代:十一世紀後半以降。あるいは十二、三世紀(J・デ・フリースの説)[1]
- 成立場所:アイスランド?[1]
- 韻律:fornyrðislag(古譚律)。頭韻が代名詞におかれたり、切れ目が短行の中におかれたりするなどいい加減な部分もある[1]
- ケニング:エッダの中で最も多く見られる[1]
ロキの口論[1]
- Locasenna[13] (senna[9] 口論[2])
- エーギルのところでの神々の酒宴にロキが乗り込んで、次々と神々を罵り、スキャンダルを暴く話[1]
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:十世紀末(G・ヨーンソンの説)、1200年頃(デ・フリースの説)[1]
- 成立場所:アイスランド?[1]
- 韻律:完璧なljóðaháttr(歌謡律)の詩形をもち、技巧的にきわめて優れる[1]
スリュムの歌[1]
- Þrymsqviða[13]
- 槌を失ったトールが、ヘイムダルの入れ知恵で、自ら花嫁に化け、ロキを侍女に仕立てて巨人の国におもむき、槌を取り戻し、巨人族を打ちのめす話[1]
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:十一世紀前半[1]
- 成立場所:アイスランド[1]
- 韻律:fornyrðislag(古譚律)。脚韻を踏む箇所がみられる[1]
- ケニング:ほとんどない[1]
ヴェルンドの歌[1]
- Vǫlundarqviða[13]
- フィン王の息子ヴェルンドがニーズズ王に復讐をする
- 「白鳥乙女」と、古くから全てのゲルマン種族の間で愛好されている「鍛冶屋ヴェルンド」の二つの話が結びついている[1]
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:九世紀[1]
- 成立場所:ノルウェー[1]
- 韻律:fornyrðislag(古譚律)[1]
アルヴィースの歌[1]
- Alvíssmál[13] (mál ことば、事柄、契約 [中])[3]
- トールとアルヴィースの知恵比べというていで、様々な種族における様々な物事の呼び名を紹介する
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:十一世紀[1]
- 成立場所:アイスランド?[1]
- 韻律:ljóðaháttr(歌謡律)[1]
フンディング殺しのヘルギの歌Ⅰ[1]
- Helgaqviða Hundingsbana in fyrri[13] (bani 殺害者、死 [男])[3](fyrri 以前に、むしろ [副])[3]
- ヘルギの誕生から始まる、彼の英雄的武勲を称えた頌歌[1]
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:十一世紀中頃[1]
- 作者:アイスランドのスカルド詩人[1]
- 韻律:fornyrðislag(古譚律)[1]
- ケニング:同義語と共に多用される[1]
ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌[1]
フンディング殺しのヘルギの歌Ⅱ[1]
- Helgaqviða Hundingsbana ǫnnor[13]
- ヘルギとシグルーンの愛とヘルギの死にさまざまな伝説を取り入れた歌[1]
- 出典:王の写本[1]
- 成立年代:九世紀中頃(ヨーンソンの説)、十二世紀末(デ・フリースの説)[1]
- 成立場所:ノルウェー[1]
- 韻律:fornyrðislag(古譚律)[1]
シンフィエトリの死について[1]
グリービルの予言[1]
レギンの歌[1]
ファーヴニルの歌[1]
シグルドリーヴァの歌[1]
(欠損)
シグルドの歌(一部欠損)[1]
グズルーンの歌Ⅰ[1]
シグルドの短い歌[1]
ブリュンヒルドの冥府への旅[1]
ニヴルング族の殺戮[1]
グズルーンの歌Ⅱ[1]
グズルーンの歌Ⅲ[1]
オッドルーンの嘆き[1]
グリーンランドのアトリの歌[1]
グリーンランドのアトリの詩[1]
グズルーンの扇動[1]
ハムジルの歌[1]
小エッダ
- 谷口幸男(1973)『エッダ―古代北欧歌謡集』新潮社 :王の写本収録の古エッダ31篇の日本語完訳が記載。小エッダ、スノリのエッダの一部の日本語訳も記載