ギンヌンガガプ(ギヌンガガプ、ギンヌンガ・ガップ)

Ginnungagap[3](ギヌンガガプ[2][25]、ギンヌンガ・ガップ[26]) 底なしの深淵[3]、ギンヌンガの裂け目[15]、底しれぬさけめ[26] [中][3]
 ― ginnung[3] 深さ、底[3] [女][3]
 ― gap[3] 深淵[3] [中][3]

原典版

巫女の予言

  • 原文では、gap var ginnunga で記載。varは英語wasに相当
  • ユミルが住んでいた太古、世界にまだ何もないときに唯一存在していた、奈落の口[1][4]

ギュルヴィたぶらかし

  • ginnungagapで記載
  • 人類ができるより遙か前から存在している奈落の口[1]
  • 北側はニヴルヘイムからの重い氷と霜で覆われている。南側はムスペルスヘイムから飛んでくる火花で暖かい。その二つが、風のないだ空のように穏やかな奈落の口でぶつかって、雫がしたたりユミルが生まれた[1]
  • ボルの息子達がユミルを殺害し、死体をギンヌンガガプに運んで天地を創造した[1]
  • ユグドラシルを支える三つの根のうちの一つは霜の巨人のところに伸びているが、そこは昔ギンヌンガガプがあった場所である[1]

詩語法

  • ginnungagap[9]で記載。
  • 空気(空間)の同義語[2]

巫女の予言において「ギンヌンガガプ」は「空虚」「空無」としての巨大な空間として描写される。対してスノリのエッダでは「ギンヌンガガプ」は「二極的な力の対立を内包したカオス」として描写されている。[4]

「カオス(混沌)」説

  • 「gap」は「巨大な裂け目」という意味であり、「ginnȗnga」はその強調表現であることから、「ギンヌンガガプ」は「裂け目の中の裂け目」と解釈できる。さらにこれはギリシャ人の「Χαοϛ」と一致する:グリム『ドイツ神話学』[4]
  • ギンヌンガガプからカオスが連想できる:ペターセンの解釈[4]
  • 「Ginnungi」は「巨大な、空っぽの空間の擬人化」と考えられ、それはギリシャ神話のカオスと一致する:E・モックの解釈[4]
  • 「Ginnungr」は「巨人」の呼称である:オールセンの解釈[4]
  • 「ギンヌンガガプ」は「巨人族の住む世界=ヨトゥンヘイム」のいわれである:ホルツマーク女史の解釈[4]
  • 「ginu-」は「魔力」、「ginna-」は「魔力的」、「ginn-」は「魔力で理解する」、「gandr」は「魔術的行為によって生み出された妖怪」、「Ganna」は「女魔術師」の意味であることから、「ginnung」には「惑わし・欺き・嘲り」の意味が含まれ、最終的に「ギンヌンガガプ」は「魔力で満たされた原始空間」と規定できる:デ・フリースの解釈[4]

「空無」説

  • スノリがした「ギンヌンガガプの両端にそれぞれ寒暖の地を想定すること」自体が、(本来何もないはずの)世界創世前に対立存在を措定することになり、不合理である。対して、巫女の予言に見られるギンヌンガガプ描写は「太古にいかなる物の存在も認めない無、二つの力を排除し分離する空虚」であり、こちらのほうが哲学的には遙かに真っ当な概念である:ハイベーァの解釈[4]
  • 「ginnunga-」は「gap」にかかる強調の接頭語であり、「完全に空虚な空間」「絶対的空無」以外のものは意味しない:ノルダルの解釈[4]
  • 「ギンヌンガガプ」は「口を開いた空虚」と定義できる。「ginnungi」が人格として把握されるかはきわめて疑問:ヨーンソンの解釈[4]
  • gína[3] 口をあんぐり開ける[3] [自][3] デンマーク語のgabe(ぱっくり口を開ける)に相当[4]
  • gapa[3] 口を(ぽっかり)開ける[3]
  • ginnungr 詩人が使う場合、Høg「ペテン師」、Fisk「エサに釣られやすい人」の両方の意味で用いられる[4]
  • 「ぱっくりと開いた奈落の裂け目(immane baratrum abyssi)」が北欧人の言葉では「Ghinmendegop」と呼ばれる:ブレーメン『ハンブルグ教会史』[4]
  • 上記の「Ghinmendegop」とギンヌンガガプの間には本質的な差異はない。十一世紀当時の北欧人は、大地は海に囲まれた平たい板で、北に向かって航海すれば海が途絶えて深淵に墜落すると考えていた(≒北極海):G・ストームの解釈[4]
  • スカルド詩では「ギンヌンガガプ」が「天空」のケニングであることから、エッダ詩では「ギンヌンガガプ」は「深淵(Gap)」ないし「空っぽの空間(det tomme Run)」のいわれである:グルンドヴィ『北欧神話学』[4]
  • 「ギンヌンガガプ」は「欺きの深淵ないし杯(Schlund oder Becher der Täuschung)」のことである。世界生成は光と闇、あるいは火と水のように対立するものが結合して成されるが、その結合は、生誕の中にすでに死が与えられているように、欺きによって成されているものである。つまり、ギンヌンガガプは世界創成自体の幻影性を暗示している:モネ『北ヨーロッパ異教史』[4]
  • 「Ginnungagap」の前綴り「ginn」の本来の意味はデンマーク語の「vid(広い)」「stor(大きい)」「vidt udstrakt(非常な広がりのある)」「tom(空っぽの)」「udstraekning alene uden tanke om fylde(満ちる望みのないただの広がり)」であることから、「ギンヌンガガプ」は「広い空間」「眼前に広がる茫々たる大洋」と連想できる。さらに、「ginn」は「ginna(広い。またはデンマーク語でbedrage(欺く)に相当)」という動詞に関連があると思われ、また「gína」と「ginna」の語源は同じであると考えられることから、「ギンヌンガガプ」は「欺きに満たされた巨大空間」と解釈できる:ペターセンの解釈[4]

参考文献


新釈北欧神話版

序章

巨人族の始祖・巨人ユミルが生まれた大穴。中には超超超高濃度の魔素マナが充満する混沌の地。
巨人族の間では、ギンヌンガガプに住む牝牛の乳房から、魔素マナを含んだ乳の川が流れてきている、と信じられている。

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