Loki[1][3][9][13][16][27](ロキ[1][2][3][10][16][26][27]、ローキ[25][27]) 閉じる者[1]、終える者[1] [男][3][27]
原典版
概要
- 死の神(O・ショーニング、H・シュック、F・R・シュレーダー)[1]
- 文化英雄(フォン・デル・ライエン、A・オルリク・Mカロック)[1]
- キリスト教のルチファルの北欧形態(S・ブッゲ)[1]
- 世界の終末をもたらす神(W・ゴルター、E・モーク、F・ヨーンソン)[1]
- logi(火)に関連づけて、火の神、天の火、稲妻に関連がある(V・リュドベルイ)[1]
- 夏の暑熱、かまどの火、火山の火に関連がある(E・H・マイヤー)[1]
- 神々の世界に難事を持ち込んでは火消し役をつとめさせられる、神々の中のメフィスト[1]
- 火の擬人化。本来火の妖精だったものがアース神と関係をもつようになり、あるときは神々を助け、あるときは神々に災いをふりまく存在となり、次第に悪や禍いの破壊的な面を強くしていった[1]
- Odinと兄弟を誓い、神々の一員に加わるが、種々の悪事を働く[3]
- Loki lævíss(<悪巧みの>ロキ)。北欧神話伝承において最も問題を含んだ存在。「神々の滅亡」に際しては、我が子フェンリル狼やミズガルズ蛇とともに巨人側に立って神々を滅ぼす[16] (læ 悪、腐敗、破滅 [中])[3]
- 巨人族の生まれだが、主神ヴォーダン(オーディン)のと血をまぜ義兄弟となる。死の女神ヘル、怪狼フェンリル、ミズガルズの大蛇などを産み、神々の世界に多くの災いをもちこむトリックスター的存在[27]
巫女の予言
ヒュミルの歌
ロキの口論
- エーギルが開催した酒宴に参加する。その際、エーギルの従者フィマフェングが人々から褒められているのが聞くにたえず、殺害した。そのため一度は森にまで追い立てられたものの、再度宴会の場に姿を現し、ブラギ、イズン、ゲヴュン、オーディン、フリッグ、フレイヤ、ニョルズ、チュール、フレイ、ビュグヴィル、ヘイムダル、スカジ、シヴ、ベイラを激しく侮辱した[1]
- かつてロキはオーディンと血を混ぜた[1]
― 訳注:友が互いに血盟を誓った[1]
― 管理人注:この後の十六節において「ブラギとロキは実子と養子の仲」であると記載されているため、オーディンとロキは義兄弟ではなく養子の関係であったことを示唆している - オーディンに、八年もの間、地下で乳しぼり女になり、そのうえ子供をこしらえた、と侮辱された[1]
- バルドルがこの先、館に馬でやってこられなくなる(管理人注:死ぬ)のは自分のせいである、とフリッグに話した[1]
- ニョルズに、男神なのに子供をこしらえた、と侮辱された[1]
- チュールの妻と寝て子供をつくったことを暴露した。チュールはその賠償を一ペニングルも請求することができなかったという[1]
- スカジによると、いずれロキは自身の息子の腸で鋭い岩に縛り付けられる[1]
- スカジと寝たことを暴露した[1]
- シヴと寝たことを暴露した[1]
- 宴会にて神々を侮辱し尽くしたのち、鮭に姿を変えてフラーナング滝にかくれたが、アース神達に捕らえられ、息子ナリの腸で縛り上げられ、息子ナルヴィは狼に姿を変えさせられた。さらにスカジが捕まえてきた毒蛇が顔の上方に結びつけられたため、毒液が顔にしたたり落ちる。ロキの妻シギュンは洗い桶でそれをうけるが、いっぱいになると毒液を捨てに行く。その際、毒がロキの顔の上に垂れ、痛みで猛烈に暴れることで地震がおきるといわれている[1]
スリュムの歌
- トールの槌がなくなっているとの相談を真っ先に受け、彼と共にフレイヤのもとへ羽衣を借りに行き、羽衣をまとって巨人の国へと向かう[1]
- スリュムから槌を取り戻すため、花嫁に付き従う侍女の姿に変装した[1]
レギンの歌
- オーディン、ヘーニルと共にアンドヴァラフォルスを訪れ、そこで魚を捕って食べていた獺を仕留め、皮をはいでフレイズマルのところに夜の宿を求めて訪れた。しかしその獺はオトというフレイズマルの息子であったため、三人はフレイズマルにとらえられ、黄金の賠償を要求された。オーディンらは黄金を手に入れるためにロキをつかわし、ロキはラーンのところを訪れて彼女の網を手に入れた。それからアンドヴァラフォルスに行って魳に化けたアンドヴァリを捕まえて、彼の持っている黄金をすべて巻き上げ、一つだけ残しておいた腕輪も取り上げた[1]
ヒュンドラの歌
- ビューレイストの兄[1]
- アングルボザとの間に狼を産み、スヴァジルファリとの間にスレイプニルを生んだ[1]
- 生焼けの女の心臓を菩提樹で焼いて食べたところ、ありとあらゆる怪物を孕み、それが地上に生まれ出でた[1]
ギュルヴィたぶらかし
- アース神の中傷者(rógbera ásanna[12])、あらゆる嘘の張本人(frumkveða flærðanna[12])、神々と人間の恥(vamm allra goða ok manna[12])と呼ばれる[1] (Áss エーシル神族の神 [男])[3](kveða 言う、話す)[3](allr すべての [代])[3](goð 神(異教の) [中])[3](mann maðr(男、人)の対格)[3]
- 巨人ファールバウティの息子で、母はラウフェイまたはナール。ビューレイストとヘルブリンディの兄弟。容貌は美しいが性質がひねくれていて、行動がひどく気まぐれ。悪知恵にかけては誰にもひけをとらず、何事にもずるい手立てを心得ている。いつも神々を苦境に陥れるが、そのはかりごとで救い出したこともしばしばある。妻はシギュンといい、間にナリまたはナルヴィという息子をもうけた。またヨーツンヘイムに住むアングルボザという女巨人との間にフェンリスウールヴ、ヨルムンガンド(ミズガルズの大蛇)、ヘルという三人の子供を作った[1]
- ある日一人の鍛冶屋がアース神のもとにやってきて、立派な砦を造る代わりにフレイヤと太陽と月を報酬に欲しいと申し出、神々側は一冬で仕上げることを条件に、鍛冶屋側はスヴァジルファリという自分の馬の助けを借りることを条件に提示した。ロキのすすめで鍛冶屋はスヴァジルファリの助けを借りることが認められたが、この馬は鍛冶屋の倍もの仕事をこなしたため工事は大いに進み、ロキは怒った神々に、取り決めを破談にするよう脅迫される。ロキは牝馬の姿に化けてスヴァジルファリを誘惑して工事を停滞させ、砦を未完成に終わらせた。ロキはその後もこの馬のところに通い、やがてスレイプニルという優れた馬を産んだ[1]
- トールと共に東のヨーツンヘイムへ旅に出た。やがてウートガルズとよばれる城市へたどり着き、その地を治める王ウートガルザ・ロキに一芸を披露するように言われ、ロギと呼ばれる者と早食い対決をしたが、敗北した[1]
- フリッグがさせた誓いによってあらゆる物から傷つけられなくなったバルドルを気に食わなく思い、女の姿に化けてフェンサリルへ行き、フリッグから、ヴァルハラの西に生えている宿り木という若木からは誓いを取らなかった、と聞き出した。ロキは盲目のヘズに、他の者と同じようにバルドルを射って敬意を示すようにと促し、宿り木を射させてバルドルを殺害させた。死んだバルドルがよみがえる為には世界中の生物・無生物が彼の為に泣く必要があったが、セックという女巨人だけは神々の要請があっても泣かなかった。人々は、この女巨人の正体はロキであったろうと推測している。この一連の出来事に神々が激怒すると、ロキは逃げ出してある山に身を隠し、あらゆる方向を見ることができるように四つのドアをもつ家を建て、昼間にはしばしば鮭に姿を変えてフラーナング(滝)というところに身を隠した。家にいる時はリンネルの糸を手に取り、網を編むように結び目をつくっていたが、身近にアース神が迫っていることに気づいて網を火に投げ込み、川の中に逃げた。やってきたクヴァシルが火の中の灰を見つけ、これは魚をとる道具であるに違いないと悟り、アース神らは同じ網を作り上げて滝の中に投げ入れた。鮭に変身したロキは二度網を逃れたものの、三度目に網を飛び越えようとしたとき、トールにつかまれてしまった。そのとき鮭の体が手の中で滑ったので、トールは尻尾のあたりをぐいっと力を入れてつかんだ。そのため鮭の尻尾は先細りになっている。捕まえられたロキはアース神によって二人の息子ヴァーリとナリあるいはナルヴィと共にとある洞窟のところに連れていかれ、ナルヴィから引き出された腸で三つの岩にしばりつけられ、頭上に毒蛇を結びつけられた。毒蛇からはロキの顔の上に毒液がしたたり落ちるが、そばに妻シギュンが立っており、滴の下で洗い桶を支えている。それがいっぱいになり捨てに行くとき、ロキの顔に毒が滴り、猛烈にもがくので大地が震え、地震(land-skjálpta[12])とよばれる現象がおきる。ロキは神々の終末までそこで縛られているという[1] (land 土地、陸地 [中])[3] (skjálfa 震動する、ふるえる)[3]
- ラグナレクの際には、ヘルのやからを全員付き従えてヴィーグリーズにやってくる。そしてヘイムダルと戦って相討ちになる[1]
詩語法
- 裁き手となる十二名のアースに数えられる。エーギルをもてなす酒宴の席に参加する。また、その後にエーギルが開催した酒宴の席にも参加する。そのときすでに神々と仲違いしており、喧嘩の末にフィムフェングというエーギルの奴隷を殺害する[2]
- 空中や海上を走れる靴を持つ[2]
- 世の中を知るために、オーディン、ヘーニルと共に旅に出たところ、滝のそばで鮭を食べている川うそを見つけたため、石を投げて狩った。その晩、農夫フレイズマルの元に宿を求めたが、殺した川うそは彼の息子だったことが判明し賠償を支払う約束をする。ロキは賠償の黄金を手に入れるためにアンドヴァリという小人の元へ向かい、彼が持っている財産をひとつ残らず奪いとった[2]
- オーディン、ヘーニルと共に旅に出かけたところ、旅の途中で巨人シャチに化かされ、女神イズンを攫うよう脅迫され実行する。そのことを神々に攻められイズンを連れ戻すが、神々によってシャチは殺害される。後にシャチの仇討ちにやってきたスカジを笑わせ、神々と和睦させた[2]
- 鷹に変身して巨人ゲイルロズの所に飛んでいったところ、捕まってしまい三ヶ月の間監禁される。逃してもらう代わりにトールを丸腰で連れてくる約束をする[2]
- いたずらでシヴの髪を刈り取ったことでトールに脅され、イーヴァルディの息子達と呼ばれる小人達にシヴの髪と船スキーズブラズニルと槍グングニルを作らせる。また、ブロッグとシンドリという兄弟の小人達がそれらと同じくらい見事な宝を作れるかどうか自分の首を掛けた。結果、ブロッグとシンドリの作ったミョルニルが巨人への備えになる点で最も優れていると判断され、賭に負けたが逃走。すぐにトールによって連れ戻され、その唇は小人達によってヴァルタリという糸で縫い合わされた[2]
ソルリの話とヘジンとホグニのサガ
ロキ、ローズル共に火と関連があり、さらに詩語法ではオーディン・ヘーニル・ローズルではなくオーディン・ヘーニル・ロキで三幅対を成していることから、ローズルと同一視されることが非常に多いが、一方で否定的な意見もある[1][4]
同一視に賛成の意見
- ローズルとロキは本質的に同一の神であり、世界の始まりから終わりにかけての時間推移の中で生じたオーディンとの関係性によって、ローズル(生命を呼び覚まし、生育する力)とロキ(生命を破壊・絶滅させる感性)の二神に分裂した:ペターセンの解釈[4]
- ルーン文字のLuhþurar(火をもたらす者)はLóðurrの語源である:オルリックの解釈[4]
- LokiはLoþtrあるいはLóðurrの短縮形である:ヨーハネッソンの解釈[4]
- 「狡猾な者」を意味するルーン文字LogaþoreとLóðurrを結びつけ、さらに狡猾な者はロキ以外に無いということから、ロキという名はLogaþore、つまりLóðurrの短縮形である:E・A・フィリップソンの解釈[4]
同一視に反対の意見
- もともとロキとローズルは別個の神であり、ロキがその地位と役割を吸収し、ロキ本来の悪の性格と、ローズル由来の善なる性格を併せ持つようになった。また、人間に熱を与える行為から、ローズルは朝の光の神であるヘイムダルと同じ神と見なすべき:ブランストンの解釈[4]
- 否定的、あるいは根拠が不足している:デ・フリース、デヴィッドソン女史の解釈[4]
その他の意見
- vársinna Óðins[9] オーディンの春の友[2] (vár[9] 春[2])(sinni 仲間 [男])[3] [9]-23.
- sessa Óðins[9] オーディンの食卓仲間[2] (sessi[9] 同席者[2] 仲間の同義語[2]) [9]-23.
- vársinna ása[9] アースの春の友[2] (Áss エーシル神族の神)[3] [9]-23.
- sessa ása[9] アースの食卓仲間[2] [9]-23.
- son Fárbauta[9] ファールバウティの子[2][10] [9]-23.
- son Laufeyjar, Nálar[9] ラウフェイまたはナールの子[2] (sonr 息子)[3] [9]-23.
- Laufeyiar son[13]、Laufeyjarson[12] ラウフェイの息子[1]
- Laufeyjarson[9] ラウヴェイの子[2]
- bróður Býleists[9]、Byleists bróður[22]、bróðir Býleists[12] ビューレイストの兄弟[2] (bróður bróðir(兄弟)の属・与・対格)[3] [9]-23.
- bróður Helblinda[9] ヘルブリンディの兄弟[2] [9]-23.
- heimsæki Geirröðar[9] ゲイルロズの訪問者[2] [9]-23.
- kistuskrúð Geirröðar[9] ゲイルロズの箱の飾り[2] [9]-23.
- úlfs fǫður[13] 狼の父[1] (úlfr [男] 英語wolfに相当)[3]
- föður Vánargands[9] ヴァーナルガンドの父[2] (fǫður faðir(父)の属格)[3] [9]-23.
- föður Fenrisúlfr[9] フェンリル狼の父[2] [9]-23.
- föður Jörmundgands[9] ヨルムンガンドの父[2] [9]-23.
- föður Miðgarðsormr[9] ミズガルズ大蛇の父[2] [9]-23.
- föður Heljar[9] ヘルの父[2] [9]-23.
- föður Nara[9] ナリの父[2] [9]-23.
- föður Ála[9] アーリの父
― [2]では「ヴァーナルガンドすなわちフェンリル狼とヨルムンガンド、すなわちミズガルズ大蛇とヘルとナリの父」「アーリの身内で父の兄弟」との記載であるが、原文「föður Vánargands, þat er Fenrisúlfr, ok Jörmundgands, þat er Miðgarðsormr, ok Heljar ok Nara ok Ála, frænda ok föður-bróður」[12]のカンマの位置や内容から考えると「ヴァーナルガンドすなわちフェンリル狼とヨルムンガンド、すなわちミズガルズ大蛇とヘルとナリとアーリの父」「身内または父の兄弟」とするほうがより妥当であると判断 - frænda[12] 身内[2]
- föðurbróður[12] 父の兄弟[2]
- þjóf jötna[9] 巨人の盗人[2] [9]-23.
- þjóf hafrs[9] 山羊の盗人[2] [9]-23.
- þjóf Brísingamens[9] ブリーシンガメンの盗人[2] [9]-23.
- þjóf Iðunnar epla[9] イズンのリンゴの盗人[2] [9]-23.
- þrætudólgr Heimdallar[9] ヘイムダルのけんか好きの敵[2] [9]-23.
- þrætudólgr Skaða[9] スカジのけんか好きの敵[2] [9]-23.
- Sleipnis frænda[9] スレイプニルの身内[2] [9]-23.
- ver Sigynjar[9] シギュンの夫[2] [9]-23.
- hárskaði Sifjar[9] シヴの髪をそこなう者[2] (hár 髪 英語hairに相当)[3](Skaði[9][12] 傷つくる者[1]) [9]-23.
- bölvasmiðr[9]、bǫlvasmiðr[13] 禍の鍛冶屋[2] [9]-23.
- slægi áss[9] ずるいアース[2] [9]-23.
- bundni áss[9] 縛られたアース[2] [9]-23.
- rægjandi goðanna[9] 神々の中傷者[2] [9]-23.
- vélandi goðanna[9] 神々の欺瞞者[2] [9]-23.
- goða dólgr[9] 神々の敵[2] [9]-23.
- ráðbani Baldrs[9] バルドルのはかりごとによる殺し手[2] [9]-23.
- Baldrs andskoti[3] バルドルの射殺者[3]
- 人びとの指揮者[2] [9]-75.(275)
ロキの名に関連するケニング
参考文献
新釈北欧神話版
序章
ヴェーの項参照
第一章
オーディン、ヘーニルの義兄弟。両性具有の少年。
明るく人懐っこい性格とその中性的な見た目から、男女問わず多くの住民に愛されている。