コラム:初心者向け北欧神話ガイド

はじめに

アニメや漫画、ゲーム好きの方なら名前くらいは知っているであろう「北欧神話」

ですが、
「興味があるけど、難しそう」
「どの本から読んだらいいかわからない」
「読んでみたけど、難しすぎてわからなかった」

という方は多いんじゃないでしょうか。

実際、世界各地の神話や伝承を追うのはかなり難しいです。
なぜなら、

  • キャラデザが決まってない!
  • 声優さんの声がついてない!
  • 世界観や設定が分かりづらい!
  • 話によって設定が矛盾してる!
  • 名前がカタカナだらけで読めん!!

といったように、幾重にもハードルが積みあがっているから……。

でも、待ってください。
最初からいきなり難しい物が理解できないのは、誰でも同じです。
「難しいから」と諦めてしまうのはもったいない!!

そこでこのコラムでは、
「北欧神話に興味はあるけど、どれから手を付ければいいのかわからない」
という方のために、
初心者でもわかりやすいお勧めの本や読む順番
をまとめてみました。

少しでも、あなたの楽しい北欧神話ライフの助けになりますよう……。


まずはいきなり原典を読み始める前に、主要な神様のイメージを決めましょう!
キャラクターデザインや性格、声優、他のキャラとの関係性などが決まっているとなお良いです。

いちから自分で考える必要はありません。

北欧神話に興味を持った、ということは何かきっかけがあったはずです。
昨今は様々な作品に北欧神話関連の要素が数多く登場していますので、

  • 好きなキャラのモチーフだった
  • 好きなゲームの元ネタだった

という理由で北欧神話を調べ始めた方は多いと思います。
その中には、北欧神話の神様と同じ名前のキャラ、場合によっては、神様そのものが登場する作品も数多くありますよね。

そこで、多少強引に聞こえるかもしれませんが、
それらの作品のキャラが、そのまま原典にも出演しているんだ!
と考えてください。
逆二次創作(?)です!!

もしそういった神様ネタのキャラを知らない……という方は、『コラム:北欧神話をモチーフにした作品リスト』などを参考にお気に入りの作品を探してみてください。
名称だけを引用した作品よりも、神様そのものが登場し、神様のデザインが決まっていて、会話ができ、簡単な説明も添えて書いてあるようなものがおすすめです。

また、私は現在、北欧神話のコミカライズ作品『新釈北欧神話』をWEB連載中です!
こちらは北欧神話を知らない人でもなんとなく話が分かるように、できる限り時系列に沿って再話・再編した少年漫画となっています。
良かったらチェックしてみてください!

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主要な神様のモデルが決まれば、次の段階へ!

    ※再話本とは
  • 原典や翻訳本ではなく、原典のお話を作り直して作者のアレンジを加えて創作されたものです
  • 児童文学によくある、名作シリーズや絵本などがわかりやすい例でしょう
  • ちなみに私が連載している『新釈北欧神話』も再話にあたります

北欧神話好きのバイブルともいえる、谷口先生の【エッダ―古代北欧歌謡集】……。
ウィキペディアの参考文献としても頻回登場し、数多くのサイトでも必ずと言っていいほど名があげられる本書ですが、
初心者は絶対に読まないでください。
一ミリも内容が理解ができず、いきなり挫折します(経験談)。

何度も言いますが、いきなり難しい物は誰でも最初から理解はできません!
なのでまずは、子供向けの優しい再話本から読み始めましょう!

人生で一番はじめに読むべき北欧神話本として超オススメするのは、
岩波少年文庫の【北欧神話】です!

  • 対象年齢は小学生~中学生あたり
  • 平易な言い回しで、難しい言葉がない
  • 収録エピソードは少ないが、有名どころを抑えている

管理人の場合は学校の図書館に置いてあり、中学生か高校生のころにこれを読みました。
ページ数が少ないため、気軽に手に取って読めるでしょう。
イラストもついており、難しい言葉や言い回しもなく、物語形式でキャラクターがいきいきと描かれています。
収録されている話は少ないですが、有名なエピソードばかりなので、北欧神話の世界観やストーリーがなんとなくわかるはずです。


※よくわかる〇〇や、〇〇事典、のようなまとめ本から読み始めるのはお勧めしません。簡単な神様プロフィールしか書かれていなかったり、エピソードも簡潔に、神様ごとに分けて書かれているものも多く、物語や世界観などの全体像を把握しづらいものが多いためです。

キャラクターのイメージが決まり、北欧神話全体の世界観や有名なエピソードが理解出来たら、次はもう少し次の段階へ進んでみましょう。

再話本には、子供向けの本以外にも、一般向け(高校生~一般人あたり)の本がいくつか存在します。

その中でお勧めする再話本がこちら、
青土社の【北欧神話物語】です!

  • 対象年齢は高校生~
  • 平易な言い回しかつ、キャラ描写がいきいきとしている
  • 収録エピソードがかなり多く、ほとんどの話を網羅できる

おおむねお話が時系列で並んでおり、世界観や物語全体の理解がとてもしやすいです。
言葉も平易でわかりやすく、キャラクターの描写が生き生きと描かれており、なかでもロキの描写は思わず笑ってしまうようなものが多いです。
収録エピソードも多く、ほとんどの北欧神話エピソードがこれで読める、といってもいいでしょう。

巻頭には北欧神話関連の出土物の写真が数点、巻末には各エピソードの詳しい解説が載っており、より深く北欧神話を知りたい!という方にも読み応えが抜群です。


同じくらいの読みやすさの再話本には、
大修館書店の【ゲルマン神話―北欧のロマン】もあります。

  • 対象年齢は高校生~
  • 平易な言い回しで読みやすい
  • 各話冒頭に簡単な家系図と、索引に用語解説が載っている

内容の難しさ(簡単さ)は上記の本と同じくらいです。
収録エピソードも似たかんじです。
上記とは違い、各エピソードの冒頭に家系図が載っているのが親切です。
また、巻末にのっている索引には、簡単な用語解説も載っているので事典としても使えます!


管理人はまだ読んでいませんが、分かりやすくて面白い!とかなり評判の再話本は
原書房の【物語北欧神話 上下】です。


これらの再話本をいくつか読んだら、「世界観」「登場人物」「ストーリー」のほとんどを理解できたといっても過言ではないでしょう。

しかし、それで終わりではありません。

何度も言いますが、これらの再話本は、原典をもとに読みやすく作者独自の解釈とアレンジを加えたものだからです。

再話本は、作者独自のアレンジを加えたお話です。
実際の原典には描かれていない描写が多く、解釈が分かれる部分については情報の取捨選択が為されています。
なので、イコール北欧神話、ではありません。
あくまで原典に忠実に作られた、北欧神話の二次創作のようなもの、です。

北欧神話の原典は、(説明すると長くなるので簡単に言うと)

  1. 古エッダ
  2. スノリのエッダ
  3. 小エッダ

の三種類が存在します。
いずれも古ノルド語で記された写本となっているため、そのまま読むのは困難です。

日本語翻訳で原典を読める手段はほぼ唯一といってもいいでしょう。
北欧神話好き必携の一冊、
新潮社の【エッダ―古代北欧歌謡集】です。

  • 古エッダ全編が日本語翻訳で読める、ほぼ唯一の書籍
  • 注釈には単語の綴りと意味も記載されている
  • 小エッダの一部と、ギュルヴィたぶらかしの完訳も記載

ものすご~く乱暴な言い方を大声でさせていただきます。
これを読まない北欧神話好きは、ハッキリ言ってモグリです。
北欧神話を知るためには、それくらい重要な一冊です。

前述の「古エッダ」すべてと、「スノリのエッダ」の一部、「小エッダ」の一部の日本語完訳が記載されています。
古エッダ」部分には注釈による説明もついており、古ノルド語の綴りが確認できます。
巻末には各話の簡単な解説が載っています。
古エッダ」「スノリのエッダ」の一部(ギュルヴィたぶらかし)に載っていない有名なエピソードについては、注釈に簡単に記載されています。

  • 完訳ではありますが、ごくごくたまに意訳していて意味が分かりにくい部分や、誤訳している可能性がある部分、盛大に誤字っている部分(帯とか)なども一部あります
  • また、箇所によっては固有名詞ではなく一般名称で訳している部分もあるため正確な訳が読みたい方は古ノルド語原文と照らし合わせて読むのが良いでしょう
  • ただしいずれも重箱の隅をつつくようなものなので、原典を理解するのになんら支障を来すものではありません

この本までたどり着くことができれば、ほぼ北欧神話をマスターとしたといっても過言ではないでしょう。

それでは、よき北欧神話ライフを。

「もっと北欧神話におぼれたい……」
「もっと推しのことが知りたい……」
「北欧神話がないと生きていけない……」

北欧神話の魅力から逃れられない身体になってしまったあなた。

ようこそ、こちらへ。

ここからは、さらに深く北欧神話沼にハマってしまう事間違いナシな本をご紹介します。

翻訳本篇

前述の【エッダ―古代北欧歌謡集】には記載されていない、「スノリのエッダ」の「ギュルヴィたぶらかし」以外の部分の日本語翻訳を読む方法についてご紹介します。

スノリのエッダ」の「詩語法」部分の日本語訳が読める手段はこちら。

  • スノリのエッダ」の「詩語法」が日本語翻訳で読めるほぼ唯一の手段
  • ケニングが多く記載されている
  • 古エッダ」「ギュルヴィたぶらかし」にはない有名エピソードが記載されている

こちらの論文では、「スノリのエッダ」のうち、「詩語法」部分の完訳が読めます。
主にケニングの用法について書かれているものですが、「古エッダ」「ギュルヴィたぶらかし」には載っていない有名なエピソードは実は「詩語法」出典のものだったりしますので、その部分だけでも読んで損はないでしょう(シヤチの話や、トールフルングニルとの決闘、オトの賠償など)。

こちらは現状、書籍の形で手に入れる手段はありません。
国会図書館に複写依頼をおこなえば、有料ですがコピーを取ってもらえます。
管理人が数年前に全122ページの複写依頼をしたときは、約2700円ほどの費用で複写してもらえました。
一冊本を買うと思えば、かなり安価な部類だと思います。

通常、本の複写が出来る分量は著作権法にて厳しく制限がされていますが、こちらは論文集のうちの一部なので、著作権法上問題なく「詩語法」部分をすべて一度で複写してもらう事が可能です。

  • 法で定められた範囲以上の複写は、著作権者の許諾を受けた場合を除いて行わないでください
  • 複写利用には、国立国会図書館の会員登録が必要です
  • 遠隔複写サービスについてはこちらを参照してください

スノリのエッダ」の「序文」「韻律一覧」部分の日本語訳が読める手段はこちら。

  • スノリのエッダ」の「序文」と「韻律一覧」が日本語翻訳で読めるほぼ唯一の手段
  • 宮廷律の用法について詳しく記載されている
  • スカルド詩部分は原文との対訳あり

こちらの論文では、「スノリのエッダ」の「序文」と「韻律一覧」の完訳が読めます。

  • (1)が「序文」と「韻律一覧」の前半部分
  • (2)が「韻律一覧」の中盤部分
  • (3)が「韻律一覧」の後半部分

となっています。

「序文」は神話というより、神様を英雄の延長上としてとらえた短い人物紹介になります。
神話詩における描写や設定とはかなり異なる部分が多いので、それらとは全くの別モノと考えた方が理解がしやすいでしょう。

「韻律一覧」はスカルド詩人を目指してでもいなければ読む必要のないような教本的内容となっているので、あまり優先的に読む必要はありません。
ハーコン候を称える唱歌の部分は原文と訳文が併記されているので、サガや英雄詩、北欧史に興味がある人は読んでみてもいいかもしれません。
ケニングについては、詩語法ほど多くは記載されていません。

こちらも現状、書籍の形で手に入れる手段はありません。
国会図書館に複写依頼をおこなえば、有料ですがコピーを取ってもらえます。
管理人が数年前に全90ページ分の複写依頼をしたときは、約1900円ほどの費用で複写してもらえました。
一冊本を買うと思えば、かなり安価な部類だと思います。

通常、本の複写が出来る分量は著作権法にて厳しく制限がされていますが、こちらは論文集のうちの一部なので、著作権法上問題なくそれぞれの論文の部分をすべて一度で複写してもらう事が可能です。

  • 法で定められた範囲以上の複写は、著作権者の許諾を受けた場合を除いて行わないでください
  • 複写利用には、国立国会図書館の会員登録が必要です
  • 遠隔複写サービスについてはこちらを参照してください

対訳本篇

古エッダ」の中で一番重要な「巫女の予言」は、比較的多くの本で対訳がなされており、古ノルド語の勉強をしながら読むことが可能です。

その中でオススメする対訳本はこちら、
大学書林の【古アイスランド語入門】です。

  • 巻末に古氷和辞書が掲載
  • 巫女の予言の他、バルドルの夢などの対訳も記載
  • 古ノルド語の文法についても詳しく記載あり

こちらの本には、古アイスランド語(≒古ノルド語)の文法が主に記載されています。
巫女の予言」の原文と完訳が記載されており、「小エッダ」からは「バルドルの夢」や他のサガの対訳の記載も一部あります。

最も注目すべきは巻末の辞書で、収録されている単語数が少ないものの、日本語⇔古ノルド語の対応辞書としてはほとんど唯一のものと言ってよいでしょう。
一部の単語については、対応する英語やドイツ語なども記載されています。


巫女の予言」については様々な媒体で完訳がなされています。
より深く「巫女の予言」について理解したいという方にオススメの対訳本はこちら、
白凰社の【北欧神話・宇宙論の基礎構造―『巫女の予言』の秘文を解く】
です。

  • 巫女の予言」の対訳が記載
  • 北欧神話の世界観について相当詳しい考察がされている
  • 注釈などの記載も多く一冊で得られる情報がかなり多い

巫女の予言」の原文と完訳が簡単なイラスト付き記載されています。
かなり分厚い本ですが、そのほぼすべてが「巫女の予言」の解釈研究に使われているほどの徹底ぶりです。

ギンヌンガガプ」や「計りの樹」、「九つの世界」など、さまざまなテーマについてかなり深く切り込んで考察がなされています。
固有名詞の語義については、他の言語や文化などを引き合いに出して細かく考察されています。
解釈の分かれる部分については著者の主張だけを記載するのではなく、各国の研究者の解釈を名前と共に列挙してあります。
内容はめちゃくちゃマニアックですがかなり興味深く、面白い一冊です。

古ノルド語原典篇

古ノルド語で記された原典はいくつか種類があります。
(書かれた年代や写本によって綴りや記載が一部違っていたりする場合があるため)

管理人が綴り確認で主に使っている本はこちらです。

古エッダ
  • Edda. Die Lieder des Codex regius nebst verwandten Denkmaelern 01. Text
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スノリのエッダ
  • Edda. Die Lieder des Codex regius nebst verwandten Denkmaelern 01. Text
  • Amazonで見る

また、数百年前の本ですので、ネット上でもすべて無料で読むことができます。

古エッダ
スノリのエッダ

古ノルド語⇔日本語の翻訳が難しい場合は、間に英語を噛ませてみると意味が理解しやすくなる場合も多いですよ!


おわりに

以上が、北欧神話初心者向けガイドでした。

千年以上前から世代・民族を超えて脈々と続くジャンルの沼…………
ご興味持っていただけましたでしょうか。
他にもおすすめの本があれば適宜レビューを載せていきますので、ぜひ参考にしてくださいね。

それではみなさま、よき北欧神話ライフを!

さいとう高志

公開日:2021/02/04 15:06:23

最終更新日:2023/05/31 02:53:29

カテゴリー: 北欧神話コラム